
「過去は変えられない。」, 2013/5/25
衝撃的な殺人の現場から本書は始まる。
執拗な傷つけかたから動機は怨恨に拠るものと推察されるが、
犯人は黙して語らず、新米弁護士は繰り返し書類を読み返すことしかできない。
しかし、現場写真を見ていて気がついた。
凶器はワルサーP38。
言わずと知れた第二次世界大戦中にナチス・ドイツ陸軍に制式採用された銃である。
ここから被告人の悲しい過去が浮き彫りにされて行く。
五十八年の歳月を経て復讐を果たしたコリーニは、じぶんの罪をよく理解していた。
それでも晴らさなければならなかった恨みである。
人間が人間に対する非情な、非人道的な振る舞いにも驚かされるが、
法律によって(わたしには身勝手で不公平な内容にしか思えないが)それが正当化されていた上に、「戦時だから許される」といった判断をしてしまう愚かな理性にも呆れる。
こうして、わたしたちは思い知らされる。
踏みつけにされた人びとのこころが癒されることは絶対にないのだと。
本書が出版されたあと、ドイツ連邦法務省は「ナチの過去再検討委員会」を設置した。
これはナチ犯罪の共犯者に対する時効の問題を扱うものである。
臭いものに蓋をし続ければ見なくても済むが、見ぬふりはもうやめたのだ。
日本でも戦争を美化して語ったり、当時の軍人を神として崇めるのはいい加減にしたらどうか。
現在の政治家でも従軍慰安婦に対して軽はずみな発言をする者がいる。
いくら戦後の生まれとはいえ無神経に過ぎはしないか。
弱い者に寄り添う気持ちはないのだろうか。
本書のラストは少し肩すかしを食らったように感じるが、これが当然の帰結だろうとも思う。
誰にも言えない錘りを抱えて生きて来たコリーニのこころのうちを慮るに、ただただ痛ましい。
この国ももっと変わらなければ。わたしも何かしなければ。
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