初めてここを訪れたのは、友人の結婚式のあと。
正しくは二次会の途中。
もの判りのいい夫と子どもたちに甘えて、久しぶりのどんちゃん騒ぎに繰り出したのはいいけれど、心の底からそれを楽しんではいない自分に気づいてしまった。
それで、風に当たるふりをして、そっと抜け出して来たのだ。
ーひとりになりたくてー
久しぶりに着飾り、いつもより念入りな化粧をしても隠せない年齢とやつれた心。
どうして満たされないんだろう。
少し鬱々としながら港まで歩いた。
ナイトウェディングだったから、もう十二時を回っている。
「あの子たちは駄々をこねずに寝たかしら」
海洋巡視船の灯りが届かないところに佇み、黒い海を眺めながら思わず声が出たらしい。
「だいじょうぶですよ」
驚いて声のした方を見ると、件の友人の上司だった。
わたしよりも、五〜六歳は年上だろうか。
印象的なスピーチだった。
「すみません。先客がいらしたとは気づきませんでした」
「いいえ」
彼はそれっきり何も言わずに遠くの漁り火を見つめている。
わたしは気まずさを埋めようと饒舌になった。
普段の生活、仕事、家族のこと・・・さっき感じていた満たされない気持ちのことさえ、洗いざらい喋っていた。
眼鏡の奥の目が、あんまりやさしかったから。
「少し、休みましょうか」
彼は、小さな連れ込み宿を営んでいるのだと言った。
親が遺した旅館だったのだが、季節労働者たちもいまでは稀になり、閑静な住宅街の中にあるうえ港が見下ろせる位置に建っているというので、ラブホ代わりに利用する客が増えたのだそうだ。
「それで”連れ込み”だなんて」
わたしはくすりと笑った。
ごめん、続きは夜書くね。好きなんだ、この絵本。