2007年02月22日

『JOAN OF ARK』&『絵本 ジャンヌ・ダルク伝』

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「この絵こそ、神の声」, 2005/1/9


英仏百年戦争の悲劇のヒロイン、ジャンヌ・ダルクの物語。
詳しいことは歴史書にお任せして、いまは心ゆくまでバレットの絵を堪能しよう。
微に入り、細に穿った絵は、まるで宗教画のような趣さえ感じられる。

特筆すべきは、ジャンヌが自分の髪の毛を切る場面だろう。
その腕は毎日の畑仕事で逞しく、すらりとした鼻筋も、
美しいうなじも、短い爪さえ意志の強さを伝えている。
それは「神の声」をオルレアンまで届けるための。
そして、イギリス軍を撤退させ、王太子を正式に即位させるための。

敵味方なく命ある者に情けをかけた、「神の娘」の物語。



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MacにOSをインストールしながら開いていたのは『西洋絵画の巨匠 ファン・エイク 』


実は、バレットがこの絵本のイラストを描くにあたって、ファン・エイクの『ヘントの祭壇画』を参考にしたんじゃないかと思ったの。


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開翼時中央上段中「父なる神」。
教皇の三重冠をかぶり、水晶の錫を左手に持つ堂々たる神は、右手で祝福を与えている。
(以下、祭壇画の説明は『西洋絵画の巨匠 ファン・エイク 』より引用)



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バレットの描いた王太子シャルル。
ブルゴーニュ公が、フランス王位を我がものとしたいがためにイギリスと手を結んで王太子の追放を企んでいました。



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開翼時中央下段「神秘の子羊の礼拝」

ごめん解説文は忘れた(笑)。

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開翼時中左翼下段「キリストの騎士」

特に目立つのは、騎士たちの持つ十字軍の旗である。
いちばん手前の騎士は赤字に銀色の十字が入った三角旗で、これは復活のキリストが持つ旗であり、「エルサレムの正ヨハネ騎士団」の旗を示す。
次は銀地に赤十字の入った聖ゲオルギウスの旗、三番目は赤地に金の十字が入ったセバスティアヌスの旗である。



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戦場に出たジャンヌの軍隊。
子どものころ、この百合の紋章の意味も知らずにやたらと真似をして描いていた記憶があります。


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オルレアンが解放され、戴冠式に向かうシャルル。
ランスの周辺はまだイギリスが支配していたので、ジャンヌが先頭に立ちました。




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『ヘントの祭壇画』は1425-32年に描かれたもの。
ヤン・ファン・エイク(1390-1441)がオランダで活躍していたころ、ジャンヌは大天使ミカエルや聖女カトリーヌ、マルグリッドの声を聞きました。1424年頃だといわれています。
ファン・エイクはブルゴーニュ侯フィリップ善良公の従者兼宮廷画家となり、終生、同公の寵愛を受けながら制作活動を続けました。
そう。シャルルを追いつめたのは、このかたの義弟であるベドフォード侯。イングランド王家を差配していました。面倒なので関係は書きませんが、政略結婚によって、イングランドとフランスは同じ王を戴いていた時期があるのです。
のちにフィリップ善良公は次第にイングランドから距離を置くという態度をとるようになります。
で、最後には、1435年のアラスの和約で戴冠した王太子、シャルル7世と和解するのです。

史実と重ね合わせるのもまた面白いのですが、さあ、ジャンヌはどの程度関わったのでしょう。
ジャンヌは1429年7月、ランスでのシャルルの戴冠式に立ち会い、翌年5月、コンピエーニュでイギリス軍に捕らえられます。
1431年1月には異端審問が始まり、5月30日、ルーアンで火刑に処せられました。
こうして見て行くと、いかにもうまく利用されただけのような気がします。

彼女の名誉が回復されたのは、死後25年経った1456年7月でした。
百年戦争を終結させ、勝利王と呼ばれるシャルル7世がジャンヌの復権を宣告したのです。
さらに1920年5月9日、ローマ教皇庁から聖女に列せられました。
そして、ジャンヌの生まれたドンレミ村は、いまでは「ドンレミ・ラ・ピュセル」=「おとめのドンラミ」と呼ばれているそうです。



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この祭壇画のことをバレットが知らないはずはなく、歴史的にも、やはり意識したのではないでしょうか(直接尋ねてみたい気もしますが)。
特にトップの絵が好きなのですが、髪を切るジャンヌの背景に窓の外が見えます。
ここの演出も、ファン・エイクっぽいなぁと思うの。
『西洋絵画の巨匠 ファン・エイク 』の中のいちばん始めに”The Virgin of Chancellor Rolin"『ロランの聖母子』の解説があります。
ここを読むと比較しやすいです。

絵本を読んでから何年も経ってるのにこういうことに気がつくと、ますます知ることが楽しくてしょうがなくなります。


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『赤いターバンの男』

わたしってヤツは、まったくもっていいかげんな女で、巻末近くのこの絵を見て、やっと画家の名前とつながったのでした。
たしか美術の副読本か、毎日のように眺めていた百科事典の美術の巻(7巻でした)に掲載されていたはず。
いかに画家の名前を無視して作品だけを食い入るように見つめていたかがよくわかりますね(笑)。

これが画家の自画像だという説もありますが、現在は「そうとはいえない」説のほうが有力になっているそうです。


付け加えれば、エイクは日本では白樺派に影響を与えました。
岸田劉生、椿貞雄、小出楢重などです。



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こうなると、バレットのほかの絵本も気になります。
たいして引き出しが多くないので、また偶然の出会いに期待しよっと♪


posted by おかめ at 11:22 | Comment(2) | TrackBack(1) | 読む
この記事へのコメント
ホント、ステキな絵ですね。こういう絵本を子どもの頃から見てたんですね。

ジャンヌ・ダルクのお話しは、映画やTVドラマで見ましたが、まさしく悲劇のヒロインという感じで、心を揺さぶられるものがありますね。

百合の紋章の意味ってどういうのですか。
Posted by オカダ at 2007年02月22日 18:10


>>オカダさん
いつもアマゾンでポチッとしてくださってるでしょ。
ありがとうございます♪

バレットはイギリスのイラストレーター。
このひとの絵本については大昔に『白雪姫』という記事を書いてます。
ケイト・グリーナウェイ賞という、イギリスでの絵本の金字塔である賞も受賞しています。

百合の花はフランス王家の紋章です。
シャルルが正統な後継者であることを示すための演出でもあります。
この絵本を読んだあと、もっとジャンヌに関する本を読んでおけばよかったと思いました。
Posted by ヤヤー at 2007年02月22日 22:47
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『絵本 ジャンヌ・ダルク伝』
Excerpt: さすがに飽きが出始めているものの、少しずつPS3のゲーム 『ブレイドストーム』
Weblog: 岡田昇の研究室
Tracked: 2007-10-09 18:45