2006年11月07日

『ブラバン』

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「 万年高校生。」  2006/11/7


東京オリンピック前後に生まれたかたには、ぜひ読んでみてほしい本です。
いままで生きて来たどの時期も特別だろうけど、高校時代に部活に燃えてたひとは、きっと感じるものがあると思います。

二十五年経って、当時のメンバーで再結成されようとする吹奏楽部。
当時の思い出、現在の消息、それまで隠されていた秘密など、
それぞれの人生が「損な役回り」である他片の口から語られます。
この小説、けっこう緻密に計算されています。
また最初から読み直したくなること間違いなしです。

人生経験を積むということは、過去や未来のことに対しては
無尽蔵に感受性を刺激されるということかも知れません。
いまだって、同級生と会えばまるで時間が逆戻りしたように当時と同じ気持ちになれるのに、あのころの輝きは再現出来ません。
それでも、楽器を持ったり身体を動かしたくなるのはどうしてなのでしょう。

誰かとあの快感をまた共有したい。
うん、それかな。






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新聞広告に載る。
わたしの目に留まる。
図書館に行く。
新刊のケースに並んでいる。
予約する。
借りる。
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
読んだ!!




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面白かった!

始めにパート分けを兼ねた登場人物の紹介があり、その年次を見て、まずは奥付に向かい、作者のプロフィールを確認。
うぁ、同い年だわ。
わたしはもう高校では楽器から離れたけれど、部活という単位で見れば懐かしい事柄の多いこと。

同じ時期に違う場所で違う青春時代を送っていたひとがいることの面白さ。
この作者津原泰水さんは広島で吹奏楽部、わたしはここで弓道に明け暮れていた三年間。
こないだから弓道部のことを思い出すのは、実はこの本を読んでいたからです。
途中ポール・モーリアさんの訃報も入り、なおのこと中学・高校時代を思いました。




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当時の部員のひとりの、結婚披露宴で演奏してほしいという勝手な願いから、かつての仲間たちの消息が少しずつ分かって行きます。
当時まるで気づかなかった秘密にも触れ、主人公であり語り手である他片(たひら)はただ翻弄されるばかり。

結局は披露宴そのものがおじゃんになり、演奏の機会を失ってしまいそうになるのですが・・・。
その、結婚がダメになった理由がまた傑作で、他片じゃありませんが「バカ」と泣き笑いしてしまいました。
理由に笑い、あれだけ頑張って練習していたのに発表出来ないなんて、と、お話の上のことなのに涙が出ました。


登場人物が多いせいもありますが、最後まで読むとまた最初から読みたくなります。
この作者、けっこう策士です。
緻密に計算して組み立てられてると思います、この小説。
でも、それと感じさせないんだから、腕がいいのね。
川端裕人さんも難しいことをさらっと書けるひとだけれど、津原さん、もっとそうかも。




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1980年当時の社会現象や事件。
聖子ちゃんカット、ジョン・レノン殺害、そして、ローマ法王来日・・・。
彼の祈りのことばを記憶している他片。


 神よ、わたしの声を聞いてください。
 わたしたちがいつも憎しみには愛、不正には正義への全き献身、貧困には自分を分かち合い、戦争には平和をもってこたえることができるよう、英知と勇気をお与えください。
 おお、神よ、わたしの声を聞いてください。そして、この世にあなたの終わりなき平和をお与えください。




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各章のタイトルは全て当時のレパートリーなどから。


オネスティ
ラプソディ・イン・ブルー
ペンシルバニア6-5000
真夜中を突っ走れ
秋空に
惑星
ビ・バップ・ア・ルーラ
早く家に帰りたい
パストラル
I・G・Y
スターダスト
ムーンライト・セレナーデ
新世界より
恋は野の鳥
蛍の光
花のワルツ
タブー
3ビューズ・オブ・ア・シークレット




タイトルは知らなくとも、曲が流れてくれば「ああ、あれ!」と思うひとは多いんじゃないかな。

わたしは『蛍の光』の邦訳についてまるで知らなくて、ちょっとびっくりしたので書き留めておきます。

p.344
スコットランド民謡"Auld Lang Syne"に、ロバート・バンズが付けた詞は再会の喜びを詠っているが、 稲垣千頴(いながきちかい)の詞は戦地に赴く人を見送っている。四番には露骨に地名が出てくるうえ、戦前の文部省は愚かにも領地拡大ごとに詞を変えていた。そんな部分が歌われなくなってしまったのはやむを得ない。


Wikiにも詳しく載っていました。歌詞を知りたいかたはそちらを。
音楽を利用するなんていうことはそれこそ神代の昔からあったのでしょうが、そんなことには関係なく、うつくしい曲だと思うんですけど。
『君が代』だって、利用する人が悪いんであって、曲には罪はないと思うんですけれども。

・・・これはまた別問題ですね。
考えたくなること多すぎです。




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タイトルが『ブラバン』でなかったらきっと読まなかったと思います。
ブラスバンドが金管中心の楽器編成だということを知る以前から「中学に入ったらブラバンに入れば」と母に言われていて、耳慣れたことばだったから。
いまでこそ精神的にも肉体的にも強くなったものの、子どものころはとても身体が弱くて運動神経も鈍いと思い込んでたせいもあります。
それに、わたしはけっこう素直に親の提案を受け入れる子どもだったのだ。だって世間を知らんから。

実際に入ってみたら人数は十人と少なく、木管も金管も打楽器も最低限の人数。
それでも、心地よい経験をしたことは確か。
人間関係に悩まされもしたけどね。
それはいつでもあり、か。




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津原泰水公式サイト→http://www.tsuhara.net/

中堅の作家さんだったのね。いままで全然知らなかったわ。
でもほかも読むかは未定。
だってわたしの目の前にも後ろにも、夥しいほどの本がしびれを切らしてますから。





posted by おかめ at 23:11 | Comment(10) | TrackBack(1) | 読む
この記事へのコメント
>東京オリンピック前後に生まれたかたには

あたひのことですね(笑)
曲目は全てわかると思う、タイトルを見て思わず口ずさむものばかりなりだね。

『ブラバン』、楽器の出来ないおたまじゃくしが理解できないワタクチとしましては憧れの世界だったにゃぁ〜。

共感できるところが多々あるのね。
世代が一緒だと肯くことばかりだもんね。
『ちびまる子ちゃん』とか(違うか)

本屋や図書館で気をつけてみてみる!
Posted by ちゅうさん。。。 at 2006年11月08日 08:36
「ブラバン」、わしの時代頃から始まったが、未だマイナーでした。GSやジャズ喫茶全盛期でしたが。わしはハワイアンを高校時代にやりましたよ。
学校からは白い目で見られていましたがね。

東京オリンピックの時はばんばん稼いでいました。
テレビを見るよりバイト三昧の時代。
Posted by 釣りじいさん at 2006年11月08日 10:10

>>ちゅうさん
そ〜なのよ♪
ちゅうさんなんか、この作家ともっと近いところにいたんだね。
ちびまる子ちゃんなんかさあ、わたしたちよりふたつ上のひとが描いてんだもん。もうめちゃくちゃ泣き笑いだよねえ。
こないだの実写版も家族で見て大笑いしてました。

あたしゃこの曲名見てもピンと来なくて、津原さんの解説でやっと思い出した次第。
中学のときにはもっと歌謡曲もやったし(サウスポーとか、ビューティフル・ネームとかね)、いかにもの『若い力』とかだよ思い出すのは(爆




>>釣りじいさん
音楽なんてやってると不良だと決めつけられていた頃の話でしょ。
面白いもんで、うちの親なんかも吹奏楽はいいけどバンドはダメだって。
クラシック至上主義(笑)。なら、オケはいいのかと思えばそんな楽器を習えるような教室は近くになく、幸か不幸かそんな才能も発揮することなかったので、現在に至ります。

ちゅうさんやわたしがバブバブしていた頃には、充分に大人ですもんね〜。
昭和の勢いを実感してた世代なんでしょうね。
Posted by ヤヤー at 2006年11月08日 14:19
これは面白そうな本ですね。絶対読みます。まずは図書館にリクエストかな。オカダのあのころは全然輝いてなかったので、輝いてたお話しを読みたいです(笑)。
Posted by オカダ at 2006年11月08日 18:37
私はあまり「ブラバン」とは関係ない学生生活を送っていたのですが
中学のときの「吹奏楽部」はちょっと憧れでした。

面白そうな本ですね。
ぜひぜひ借りてみたいと思います♪
Posted by さゆた at 2006年11月08日 21:49

>>オカダさん
うん、ぜひぜひ♪
誰が輝いてたかは教えられませんが、これはよかったですよ〜。
あれから二十五年も経つと、必ず亡くなってる人とか、めちゃくちゃな人生のひととか、海外行っててつかまらないひととかがいますよね。
そういうのとか、まあ、泣き笑いです。
みんな多かれ少なかれ、あの頃の野蛮さを懐かしく思うことでしょう。



>>さゆたさん
吹奏楽部でなかった人にもお勧めです♪
それに、男子ってこうだったのね、って思うことが多くて(笑)。
わたし女子高だったので。

さゆたさんに紹介して頂いた『がばいばあちゃん』も、『ミーナの行進』も、
図書館の蔵書整理が終わってからの貸し出しになりそうです。
23日以降・・・。それまで積ん読本を少しでも減らさなくちゃ(;^_^A
Posted by ヤヤー at 2006年11月09日 00:31
昔吹奏楽部だったわたしは読まねばと思いつつ、そういえばそのころから20年くらい経っている。結婚式で、という状況での話、興味あります。読みたい〜と思いながらリストアップしていかないと、図書館にいったときにすぐにわすれてしまいます。
結局、高校に入ってからはやらなかったのですけど。わたしのフルートはコルクがはげてます……一応音はでるけども。
Posted by kmy at 2006年11月10日 20:12
>>kmyさん
そういえばkmyさんも吹奏楽部でしたね♪
これはアマゾンの商品紹介にもあった通り、青春群像劇です。
でも、ホントにこんな高校生活だったのっと思う部分も多くて、かなりびっくりしながら楽しみました。
現在の自分の生活からは想像もできないような人生を送っているひとが、たくさんいるんだろうなあ。

フルート、コルクはげてると音漏れません?
サックスのマウスピースをくわえてると下くちびるも噛んじゃうのですが、ちょっとあの痛みを思い出したりして。
でも、バチ持ってスネアドラム叩きたい気分♪
Posted by ヤヤー at 2006年11月10日 23:23
ヤヤーさん、こんにちは。
私は、ブラバン経験者ではなかったのですが、やっぱり高校時代のことを思い出しました。
わぁ、津原さんと同じ歳なのですか?!
ということは、次代の風俗描写がかなり懐かしかったのでは。
ブラバン経験者にはきっとこたえられない作品でしょうね。
Posted by 藍色 at 2006年12月09日 16:25

>>藍色さん
TBいらっしゃいませです〜♪
津原さんはSF界では知らないひとがいないというほどの方だそうで、わたしも初めて読んだのですが、知らなくても全然気にならずに楽しめました!

部という特殊な組織の中で、いろんなことが培われたよなぁと思い出す作品でした。
それも、トシとったからわかることでもありますけど。
当時の事件や風俗、必死になって思い出しましたよ(笑)。
辛いことも悲しいこともあったのに、それだっていつの間にか自分の肥やしになってます。
Posted by ヤヤー at 2006年12月09日 21:52
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ブラバン 津原泰水
Excerpt: 装画・挿画は福山庸治。装丁は松本美紀。 大学卒業後、八年間、少女小説作家として活動。1997年「妖都」を上梓。主な作品「少年トレチア」「綺譚集」「赤い竪琴」など。 語り手の他片等(たひらひとし..
Weblog: 粋な提案
Tracked: 2006-12-09 16:27
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